フル・フロンタル


悪人度:8
強さ:10
作品貢献度:10
タイプ:カリスマ型悪人


あらまし


ネオジオン残党軍、通称「袖付き」の首魁。
シャアの反乱後、資源衛星で人知れず朽ち果てようとしていたネオジオン残党軍の前に突如現れ、
圧倒的なカリスマで軍隊レベルまで纏め上げた。
ラプラスの箱を利用して「サイド共栄圏」の実現を目論む。


パイロットとしての技量も圧倒的で、専用モビルスーツシナンジュ」に乗った彼と互角に戦えるパイロットとモビルスーツ連邦軍の中では少ない。
事実、ガンダムUCの中ではジェスタユニコーンガンダムバンシィにしか本気を出させていない程であるから、その実力の高さは伺えよう。


その正体は、ジオン共和国の首相、モナハン・バハロが差し向けたシャアの似姿をした強化人間であった。
彼の目的はモナハンの目論見そのものである。
強さとカリスマに加え、オリジナルであるシャアにはないしたたかさをもった彼であったが、
その考えはバナージ、ミネバには理解されなかった。
全ての始まり、そして終焉の地であるインダストリアル7においてバナージ・リンクスリディ・マーセナスらに敗北。
ビーム・マグナム二発の直撃を受け、愛機、シナンジュは機体の機能を喪失。最期はビーム・トンファーに刺し貫かれ、虚空に散った。


評論
何から何までシャアそっくりのキャラクターである。
声は勿論シャアでお馴染みの池田秀一氏が演じておられ、まさにシャアそのもの。
悪い意味では青臭く、いい意味では人間臭かったシャアと違うのは、フル・フロンタルは目的のためなら味方をも使い捨てのコマにするダーティーさ、ドライさを持ち合わせている所だろう。
事実、彼は目的達成のために機械的かつ無機質的に動いている。
ラプラスの箱を開放して連邦政府を恫喝し、サイド共栄圏構想を実現する、という事のためにネオジオン残党軍にも少なからず犠牲が出ているにもかかわらず、彼の感情は一切動くことはなかった。
彼はどこまで行っても無感動、無表情であった。
そのデジタルな思考はオリジナルであるシャアの仇敵、ギレン・ザビのように感じられる。


シャアより無機質で機械的な「そっくりさん」に過ぎないのに、
彼がカリスマを維持できたのは、ひとえにその仮面のおかげであろう。
仮面を脱いだらフル・フロンタルはシャアのそっくりさんにすぎないと皆分かってしまう。
それは一目瞭然だ。
ミネバが評したように、シャアはそんなに無機質かつ機械的な、「からっぽな」人間ではなかったからだ。


だからこそ、彼は仮面を被り続けた。
仮面さえ被っていれば、ソレと相対した自身を鏡として映しだされた鏡像に他人が意味を見出し、勝手に恐れ、敬ったりしてくれると知っているからである。


はっきり言ってしまえば彼はセコく、狡い人間であった。
仮面を被ってソレっぽく振る舞っていればあとは他人が勝手に動いてくれる、という計算に基づいて「キャラを演じる」…所謂現代っ子のようなキャラクターである。
バナージの問いに答えて仮面を脱いでみせたのも、ジョナ・ギブニー機付長を射殺したのも全ては計算あってのことであった。


からしても、同一人物が演じながらシャアとフル・フロンタルでは抑揚のなさと言うか、
無機的、無感動な感じが気になる。
OVA版第3話のクライマックスでバナージに「聞こえているなら止めろ。このままではお互い大気圏で燃え尽きることになる!」と言っているが、声からはまるで焦燥感が伝わってこないのである。
仮面の下を窺い知る事は出来ないが、ギルボアが撃墜された際も無表情だったのであろう。
それほどまでに彼はデジタルな思考の人間なのだ。


ここまでデジタルな思考をしたキャラクターを筆者はギレン・ザビ位しか知らない。
作中世界で彼は機械のように無機質に、目的達成のために動き続けるのであった。
OVA版で彼がどのような悪業をするのか、呪詛を吐くのか、私は楽しみでならない。

  • 名言

「今の私は、自らを器と規定している。宇宙(そら)に捨てられた者たちの思い、ジオンの理想を知るもの達の宿願を受け止める、器だ」
OVA版2話より。
からっぽの彼を象徴したかのようなセリフである。
いみじくもミネバが評したように、彼は文字通り「からっぽ」の人間であった。


「見事と言いたいが、違うな。バナージくん」
「じきに分かる。究極の感応を得るということが、どういうことか……。
真のニュータイプとなる代償に、君はそのマシーンに喰われる。バナージ・リンクスという遺伝子の器は失われる。
究極のニュータイプの完成だよ
言ったろう?君はもう、”みんな”の中には帰れない」
ビーム・トンファーに貫かれながらのセリフ。
敗れながらも呪詛を吐くのを止めない。
これも立派な悪役のお仕事である。